不妊検査と一般治療

妊娠成立のしくみ

妊娠は射精から着床にいたるいくつもの過程が正常に働いてはじめて成立します。妊娠成立のしくみについて説明します。

月経周期の調節

脳内の視床下部・下垂体から月経周期を調節しているホルモン-LH(黄体化ホルモン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)-が分泌されます。それらが卵巣に働き、卵胞(卵の入っているふくろ)が発育します。発育卵胞からはエストラジオール(E2)が分泌され子宮頚管や子宮内膜に作用します。それにより、子宮頚管からは頚管粘液が多量に分泌され精子が膣から子宮腔内に入りやすい状態となり、また子宮内膜は次第に厚くなります。卵胞が20mmに発育するとLHサージが起こり排卵がおこります。排卵後の卵胞は黄体となりエストラジオール(E2)とプロゲステロン(P)を分泌します。これらが子宮内膜に作用し受精卵を着床しやすい状態にします。

妊娠の成立機序

性交により精子が膣内へ射精され、その後精子は子宮頚管から子宮内、さらに卵管膨大部へ移動します。同時に、成熟した卵子が排卵し、卵管采より取り込まれます。その後、卵管膨大部で精子と卵子が受精します。受精卵は分割しながら卵管内を子宮腔へと移動し子宮内へ着床します。

精子の移動と排卵された卵子の卵管采への取り込み,そして卵管膨大部での受精

精子の移動と排卵された卵子の卵管采への取り込み、そして卵管膨大部での受精

受精卵の分割と卵管内の移動・ 胚盤胞の子宮内膜への着床

受精卵の分割と卵管内の移動・ 胚盤胞の子宮内膜への着床

不妊症の原因

排卵がうまくいかない

排卵がうまくいかない

月経が順調に起こる人は1ヶ月に1回排卵があると考えられますので、妊娠のチャンスがあります。しかし、排卵が起こらない無排卵の人は妊娠は望めません。排卵は脳の視床下部・下垂体と卵巣が正常に働くことにより起こります。したがって、視床下部や下垂体に異常があると排卵は障害されます。また、プロラクチン(PRL)が高い高プロラクチン血症や卵巣に小さい嚢胞が多数ある多嚢胞性卵巣、甲状腺の機能異常などの場合も排卵は障害されます。基礎ホルモンの値を測定することにより排卵障害の有無や部位を見つけます。

卵管の通過性がよくない

卵管は極めて細い管状のもので、その先端はラッパのように開いています。卵巣より排卵された卵子はその先端より吸い込まれ、子宮より卵管の先端に達した精子と受精します。その後受精卵は分裂しながら卵管内を子宮側へと移動、子宮内に達し着床(妊娠)します。このように卵管は妊娠の成立に非常に重要な役割を果たします。クラミジア感染や子宮内膜症などにより卵管の癒着や閉塞がおこると不妊の原因となります。

子宮内膜症

子宮内膜症とは卵巣や骨盤内に子宮内膜組織が存在するものです。それにより卵巣の腫大や卵管の通過障害がおこります。

精子の異常

精子が少なかったり(乏精子症)、形の悪い精子が多かったり(精子奇形症)、精子の運動率が不良である(精子無力症)場合には不妊の原因となります。また、精液中に精子が全く認められない(無精子症)こともあります。

その他の原因

  • 着床障害:子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜ポリープ、子宮奇形などが含まれます。
  • 子宮頚管粘液の異常:子宮の入り口を頸管といいます。排卵日前にはそこから粘液が多量に分泌されて精子が子宮の中に入っていきやすくなります。しかし子宮頚管粘液の量が少ない場合には子宮腔内に精子が入りにくくなります。

原因不明(一般的な検査で原因がはっきりしない)

一般不妊検査(精液検査、基礎ホルモン検査、フーナーテスト、基礎体温、超音波検査および子宮卵管造影法など)で異常を認めない場合をいいます。

基礎ホルモン検査(月経周期2~5日目)

採血により下垂体や卵巣のホルモン(LH、FSH、PRL、E2、TSH、fT4)を測定し、排卵障害の有無やその部位を診断します。

子宮卵管造影法(月経周期7~10日目頃)

子宮腔内に造影剤を入れて子宮の形や卵管の通過性を見るレントゲン検査です。妊娠を促進する治療的効果もあります。

フーナーテスト(月経周期12~14日目頃)

精子が子宮の中に入っていけるかどうかの検査がフーナーテストです。診察の前夜または当日の朝に性交をして来院していただき、子宮頚管粘液中に精子が進入したか顕微鏡で観察します。

超音波卵胞検査(月経周期12~14日目頃)

排卵の前になると卵巣に20mmくらいの袋が出来ます。これが卵胞で、この中に卵子が入っています。この卵胞が育っているかどうかを超音波で観察します。

黄体機能検査(高温期5~7日目)

排卵の7日後ごろに採血を行い、着床に必要な黄体ホルモンが十分にでているか調べます。

クラミジア抗原・抗体検査

クラミジアに感染すると卵管がつまることがあります。子宮の入り口をこするか、または採血により感染しているかどうか調べます。

精液検査

精液を採取して検査を行います。精液1ml中に1,600万個以上、精子運動率42%以上がWHOの基準値となります。この数値は、妊娠したカップルの男性の下位5%の数値となります。ひとつの目安と考えていただきたいと思います。

不妊症の一般治療

1.排卵日の予測と性交のタイミング

1.排卵日の予測と性交のタイミング
排卵直前に性交を持つことが妊娠するためには重要です。尿検査でLHというホルモンを測定し、超音波検査で卵胞の大きさを計ることで排卵日の予測が可能です。通常卵胞は20mm程度の大きさに発育後排卵します。排卵と思われる日に性交をもちます。

2.排卵誘発法

排卵誘発は無排卵や遅発排卵、黄体機能不全、多嚢胞性卵巣などの場合に行います。また、排卵が順調にある場合にも妊娠率の向上のために行います。令和4年4月より保険適用となり、使用できる薬剤が拡大されました。

1)セキソビット療法

飲み薬の排卵誘発剤です。月経3~5日目から1日4錠、5日間内服します。子宮頚管粘液の減少や子宮内膜の菲薄化が起こりにくい薬剤です。双胎の可能性も高くありません。月経周期が整の方に適しています。

2) クロミッド療法

飲み薬の排卵誘発剤です。月経3~5日目から飲むのが一般的です。抗エストロゲン作用により、頸管粘液の量の減少や子宮内膜の菲薄化が起こることがあります。この場合には誘発法の変更が必要です。クロミッド療法では5~10%に多胎妊娠が見られます。

3)フェマーラ療法

今回、保険適用になった内服薬です。月経3~5目から5日間内服します。この薬剤の使用に当たっては、内服前および内服中に基礎体温の測定が必要です。多嚢胞性卵巣の方にも使用できます。

4)HMG/FSH療法

注射の排卵誘発剤です。直接卵巣を刺激して卵胞を発育させます。連日の注射では、多胎(三つ子以上)や卵巣過剰刺激症候群(卵巣腫大や腹水貯留)のリスクがあります。月経周期8日目、10日目くらいに注射をして卵胞を発育させます。また、上記内服薬と併用して使用します。多嚢胞性卵巣の方では、連日少量のFSH製剤を自己注射し、単一の卵胞を発育させます。

5)メトフォルミン療法

多嚢胞性卵巣で、肥満、高血糖やインスリン抵抗性の方に対して使用します。月経開始から排卵前まで内服します。使用に当たっては、血糖の測定、内服前および内服中の基礎体温の測定が必要となります。

6)漢方療法

無排卵や黄体機能不全の場合には温経湯や当帰芍薬散を使用します。

3.人工授精(AIH)

人工授精は精液から運動性の良好な精子を分離し、直接子宮内に注入する方法です。令和44月より保険適用となりました。実施可能な方は、1)精子・精液の量的・質的異常 2)射精障害・性交障害 3)精子-頸管粘液不適合 4)機能性不妊、です(厚生労働省)。排卵誘発剤の内服やHMG/FSHの注射により排卵誘発を行ったのち、洗浄濃縮した精子を子宮内に注入します。人工授精1回の妊娠率は13%(当院データ)です。施行回数は、女性の年齢や男性側の状態により異なりますが、年齢が39歳以下では4回まで、40歳以上では2回までがお勧めです。今回の保険適用にあたり、治療が奏効しない場合には、生殖補助医療(体外受精)の実施について速やかに検討し提案すること、とされています(厚生労働省)。

洗浄濃縮精子を子宮内に注入します

洗浄濃縮精子を子宮内に注入します